エレクトロニクス向け先端製造技術
シーメンスのエンドツーエンド・デジタルスレッドとEOSの金属3Dプリンティング技術による高性能液体冷却プレート
高性能な電子機器は、熱管理ソリューションに対してますます高い要求を課しています。電力密度の増加、装置の小型化、さらに環境配慮への要求の高まりにより、従来の冷却手法は限界に近づいています。データセンター、電動モビリティ、航空宇宙・防衛などの分野では、効率的で信頼性の高い液体冷却プレートが、性能向上、装置寿命の延長、そして運用効率の改善を実現する重要な技術となっています。
この事例では、シーメンス、GKN Additive、EOSが、エレクトロニクス向け積層造形技術によって、チップを直接冷却できる新世代の液体冷却プレートがどのように実現されるかを紹介します。シーメンスがFormnext 2025で発表したこの事例は、一貫したデータ連携の仕組みと、EOSシステムを用いた産業用金属積層造形を組み合わせることで、高性能電子機器向けアプリケーションにおいて優れた冷却性能を実現する方法を示しています。
課題
従来の電子機器冷却技術の限界。冷却プレートは、強制空冷と比べてすでに大きな利点を持っています。しかし、多くの従来方式は依然としてチューブ式や真空ろう付けによるピン構造に基づいており、次のような制限があります:
- 設計の自由度が制限され、熱設計の最適化に制約がある
- ろう付け接合部が漏れの原因となる可能性があり、信頼性に課題がある
- 特にデータセンターでは、冷却に伴うエネルギー消費が大きい
- 高温状態が電子機器の故障の約50%の原因となり、装置寿命が短くなる
その結果、冷却方法の選択は、効率性、持続可能性、信頼性、および総所有コストに直接的な影響を与えます。
ソリューション
ヒートマップから印刷可能なコールドプレートに至る包括的なデジタルスレッド。 これらの課題を克服するため 、シーメンスは、熱シミュレーションから量産可能な積層造形設計に至るまでの全プロセスを網羅する、チップ直結型液体冷却プレート向けの包括的なエンドツーエンドのデジタルスレッドを開発しました。
熱要件から最適化された積層造形設計まで
- デジタルワークフローは、Siemens Calibre 3D Thermal を使用した IGBT の熱分布シミュレーションから始まり、詳細な3次元熱分布マップが生成されます。これらの熱分布マップは冷却要件を定義し、その後の最適化の基礎となります。
- 熱データはSimcenter OptiStructに引き継がれ、対流を考慮したトポロジー最適化によって、圧力損失を抑えながら熱の移動効率を最大化します。その結果、従来の製造方法では実現できなかった、高効率な冷却流路構造が設計されます。
- 最適化された形状は、Simcenter Inspireのインプリシットモデリングにより、造形可能な形状データに変換されます。これにより、積層造形に適した設計(DfAM)が実現され、格子構造や最適化された流路など、複雑な内部構造の一体化が可能になります。
- 最適な熱性能と流体性能を確保するため、設計結果はSimcenter Flothermによる解析(CFDシミュレーション)で検証されます。これにより、積層造形による冷却設計と従来のピン構造設計を直接比較することが可能となります。
- デジタル設計プロセスの最後は、Siemens NX AM Fixed Planeによる造形準備で完了します。これにより設計から製造までのデータの分断なくスムーズに移行できます。自動ネスティング機能により、EOSの金属3Dプリンティングシステム上で、多数の冷却プレートを効率よく配置でき、装置の稼働率を高めることが可能です。また、安定した再現性のある製造条件を確保し、部品あたりの造形時間を短縮します。これにより、効率的で拡張性の高い量産体制を実現します。
Siemens NX-Fixed-Plane Advanced による造形ジョブの準備
EOS金属3Dプリンティングシステムによる量産
最適化された液体冷却プレートは、産業用金属積層造形および量産における豊富な専門知識を持つGKN Additiveによって製造されています。銅やアルミニウム合金などの高い熱伝導性を持つ材料を中心に、幅広い金属材料の適用実績と、EOS金属3Dプリンティングシステムの豊富な導入基盤を活かし、GKN Additiveは多様な産業用途に対応しています。様々な分野において、信頼できる生産パートナーとして量産を支えています。
GKNは、EOSのM2、M3、M4といった各種金属3Dプリンティングシステムを多数保有し、幅広い用途に対応した製造体制を構築しています。こうした装置のラインナップにより、高い熱伝導性を持つ銅部品からステンレス部品まで、求められる性能や材料に応じて製造条件を柔軟に調整することが可能です。
このような工業化された製造環境は、高度なプロセスノウハウに加えて、粉末の自動搬送、造形工程の管理、後処理、さらにはデジタルプロセスモニタリングと品質保証によって支えられています。これらは、粉末冶金における長年の生産技術によって培われたものであり、安定した品質の再現、高いプロセス安定性、そして異なる装置や材料にわたる量産対応を可能にします。
その結果、積層造形は試作にとどまらず、本格的な量産へと展開されます。これにより、高性能な電子機器の厳しい要求に応える、最適化された冷却部品の製造が可能になります。
結果
従来の真空ろう付けによるピン構造と比較して、積層造形による液体冷却プレートは、明確な性能向上を実現します:
- チップのピーク温度が最大12%低下
- チップの平均温度が最大20%低下
- 最大46%の軽量化
- 温度の均一性の向上
- モノリシック設計により、リークリスクが低減
- 年間10万枚を超えるコールドプレートの生産規模に対応可能
さまざまな積層造形設計により、最大の熱伝達、圧力損失の最小化、部品の軽量化など、目的に応じた最適化が可能になります。
結論
本ケーススタディでは、一貫したデータ連携と産業用金属積層造形を組み合わせることで、高性能かつ信頼性が高く、量産にも対応可能な電子機器向け液体冷却プレートを実現できることを示しています。シーメンスのデジタル設計技術とEOSの金属積層造形技術、そしてGKN Additiveとの密接な連携により、積層造形は次世代の高性能電子システムに向けた実用的な製造手段となっています。
企業について
シーメンス・デジタル・インダストリーズ(DI)
シーメンスDIは、プロセス製造業および組立製造業におけるあらゆる規模の企業に対し、バリューチェーン全体にわたるデジタル化とサステナビリティへの取り組みを加速するための支援を行っています。シーメンスの最先端のオートメーション技術とソフトウェア製品群により、製品の設計・製造・最適化の在り方を大きく変革します。 さらに、オープンなデジタルビジネスプラットフォームである「Siemens Xcelerator」を活用することで、これらの取り組みをより簡単に、迅速に、そして拡張性高く進めることが可能になります。シーメンス・デジタル・インダストリーズは、パートナーやエコシステムとの連携を通じて、お客様が持続可能なデジタル企業へと進化することを支援しています。シーメンス・デジタル・インダストリーズの従業員数は世界で約7万人です。
シーメンスAG(ベルリンおよびミュンヘン)
シーメンスAGは、産業、インフラ、モビリティ、ヘルスケア分野に注力する世界有数のテクノロジー企業です。「人々の暮らしをより良くする技術を創出」を企業の目的とし、現実世界とデジタル世界を融合させることで、顧客のデジタルトランスフォーメーションとサステナビリティへの取り組みを加速できるよう支援しています。これにより、工場の効率化、都市の快適性向上、そして持続可能な交通の実現に貢献しています。また、産業用AIの分野でも先導的な立場にあり、豊富な専門知識を活かして、生成AIを含むAI技術を実用的な用途に展開し、さまざまな産業の顧客にとって使いやすく価値のある形で提供しています。また、シーメンスは世界有数の医療機器メーカーであるSiemens Healthineersの過半数株式を保有しており、医療分野における革新を推進しています。2025年9月30日に終了した2025年度において、シーメンス・グループは789億ユーロの売上高と104億ユーロの純利益を計上しました。2025年9月30日現在、継続事業ベースで世界中に約31万8,000人の従業員を擁しています。詳細については、www.siemens.comをご覧ください。
GKN アディティブ
GKN Powder Metallurgy社は、高精度な金属部品の分野で世界をリードする企業であり、先進的な粉末冶金材料の主要メーカーです。GKN Additiveによる最先端のアディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)プロセスを含む、革新的な製品ソリューションと技術を提供しています。粉末の製造から部品生産までを一貫して手掛ける、独自の一貫体制を持つ企業です。顧客と連携しながら、自動車及び産業分野における複雑な課題に対して、粉末冶金技術を活用した高度なソリューションを提供しています。GKN Powder Metallurgy社はDauchの一部門です。Dauch Corporation(旧American Axle & Manufacturing)は2026年2月にGKN Powder Metallurgy社を買収しました。現在、両社は「Dauch」ブランドのもとで事業を展開しています。詳細については、www.dauch.comをご覧ください。