受注生産の未来:AIと産業用3Dプリンティングが可能にするマス・カスタマイゼーション

2026年8月3日 | 読了時間:4分

 

足をスキャンしてわずか30秒。その間に、形状データ、材料特性、さらには製造に必要なすべてのプロセスパラメータを含む、生産に活用できるデータが自動生成されます。エンジニアがシミュレーションソフトウェアを操作する必要はありません。

かつては未来の話と思われていたことが、今では現実となっています。SiemensとEOSは、AIと産業用3Dプリンティングの融合がどのように新たな価値を生み出しているか、そしてなぜ両者が切り離せない存在なのかを、スポーツシューズのミッドソール開発事例を通じて解説します。

 

製造工程:スキャンから完成品まで

すべては個人のニーズから始まります。まず足をスキャンし、そのデータを取得します。その後、Siemensのソフトウェアに組み込まれた学習済みAIが、歩行時や走行時の動き、ジャンプ時の挙動、クッション性能をシミュレーションします。同時に、別のソフトウェアツールが、ミッドソール内部のラティス構造を自動的に調整し、個人のニーズを正確に満たすまで最適化を行います。

その結果、生産に必要なすべての情報を含む完全なデジタル製品データが生成されます。このデータファイルには、形状データ、材料特性、製造プロセスに必要な各種パラメータが含まれています。ミッドソールはそのデータを元に産業用3Dプリンター「EOSP3 NEXT」で製造されます。その後、専門の靴メーカーがアッパー素材を取り付けは、最終製品として完成します。

金型不要。金型の変更不要。最小ロット数の制約なし。


このコンセプトは、さまざまな用途に応用できます。

出発点:足のスキャンにより、製造に必要なすべてのデータが生成される | 画像・動画出典:シーメンス

AI活用を支える柔軟な製造体制

生産現場におけるAIの価値は、実際に製造プロセスに介入できる場合に発揮します。例えば、生産順序をリアルタイムで調整したり、機械故障時に生産計画を再構築したり、追加の工数をかけずに単品生産に対応したりすることが可能になります。

しかし、これは製造システム自体に十分な柔軟性がある場合にのみ機能します。射出成形や機械加工といった従来のプロセスは、安定した条件のもとでの生産を前提として設計されています。何か変更が発生すれば、金型交換、段取り替え、さらには品質検査の再実施が必要になります。AIがどれだけ最適な計画を立てても、製造設備側がそれに対応できなければ意味がありません。

産業用3Dプリンティングは、異なる考え方で設計されています。すべての部品はデジタルデータから直接製造されるため、AIが形状を変更すれば、部品もそれに応じて変化します。そこに金型交換や段取り替えといった物理的な介入は必要ありません。これにより、真に柔軟な生産体制が実現します。AIが製造に関する意思決定を行う一方で、産業用3Dプリンターは継続して生産を継続できます。

再現性という重要な前提条件

AIはデータから学習します。しかし、3Dプリンターが造形ジョブごとにわずかでも異なる特性の部品を製造してしまう場合、AIは不安定な基盤の上で学習していることになります。そのような環境では、AIは信頼性の高い意思決定を行うことができません。

一方、EOSP3 NEXTは、部品特性の高い再現性を実現するように設計されており、Siemensの自動化技術を活用化することで、ロットごとに一貫した品質を確保します。これは単なる仕様上の特長ではありません。管理された環境かでのみ機能するAIではなく、実際の生産現場でスケール可能なAI主導の生産システムを実現するための前提条件なのです。

製造企業にとってこれが意味すること

AIソフトウェアと産業用3Dプリンティングの相互作用は、適応型製造が向かっている方向性を示しています。それは、固定化されたプロセスから脱却し、ソフトウェアと生産技術がシームレスに連携する データ駆動型の 生産チェーンへと向かうものです

AIへの投資を検討している企業、あるいはすでに導入を進めている企業にとって、一つの重要な問いがあります。「AIが下した判断を、自社の生産システムは実際に実行できるだろうか。」
産業用3Dプリンティングは、あらゆる製造課題を解決する万能な技術ではありません。しかし、個別最適化、複雑形状、柔軟な生産が求められる部品においては、AIを活用した生産を実現するための基盤となる技術です。

EOSP3 NEXT 量産現場に応える3Dプリンティングシステム

ロットごとに再現性の高い部品特性を実現

EOSP3 NEXTは、本記事で紹介したるAI主導の生産プロセスの中核を担う産業用3Dプリンターです。再現性の高い部品品質を実現するよう設計されており、AIシステムが大規模な生産環境で実際の生産判断を行うために必要な、信頼性の高い基盤を提供します。

中型3Dプリンター「EOSP3 NEXT」

インスピレーションを得る